ガレキの中から、新しい学校をつくる

2012年夏のこと、女川向学館の自習室で、生徒たちの「おしゃべり」が止まらずに、ざわざわとしてしまったことがありました。一部の生徒たちが、話をするだけでなく、宿題や問題プリントに取り組まずにぼーっとしたり、ゲームや携帯をいじったり、落ち着かない様子でした。 スタッフが注意をすると、生徒たちは「わかりました」とうなずきます。反抗的なとるわけでは、決してありません。でも、しばらくするとまた、手が止まって、おしゃべりしたりぼんやりしたり。子どもたちと年齢の近いスタッフを中心に、生徒一人ひとりに話を聞いてみると、意外なことが分かってきました。


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生徒たちがこぼしたのは、「友達と一緒にいたいから・・」「家には帰りたくない」などの言葉。十分な広さとは言い難い仮設住宅。学校の体育館は壊れたままで、グラウンドをみんなで順番に譲り合って使っています。 仲の良い友だちと遊びたくても外は、ガレキ処理のダンプカーがせわしなく走り、歩道や街灯もまだない道を、子どもだけで出歩くことはできません。家庭で車の送迎ができないために、放課後の町のスポーツクラブに参加できる生徒が減ってしまったり・・・仕方なく、家でゲームをする時間も増えがちになっています。 「ストレス発散の場なんだよ!ここは。」そんなびっくりする言葉も、飛び出したそうです。

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コラボ・スクールで、学習指導と並べ掲げている役割が、「心のケア」です。大きな災害の後には、精神的に傷ついたり、メンタル・ケアが必要になる子どもたちが生まれてくることは、これまでの経験から知られています。 女川町でも、冒頭の事例のように落ち着きがなくなる子がいたり、もちろん震災前からですが、生徒同士のいじめもあります。夏場は生徒の体調不良が続出したり、一部の生徒の服装が 目立って華美になったこともありました。 阪神・淡路大震災の影響によって、心の健康について教育的配慮を必要とする児童生徒数の割合がはっきりと減少に転じるまでは、5年の歳月が必要であったそうです。 皮肉なことに、復興が進めば進むほど、環境変化に伴う精神的な“揺れ”や、ポジティブに目標に向かう生徒と、行動できない生徒の“格差”も生まれます。子どもたちの心のケアは、「長期戦」なのです。

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向学館にも、このように震災で傷ついたり、家庭の事情や友達関係のトラブルを抱えたりした子どもたちが通ってきます。そんな彼らの様子に気になるところがあると、向学館のスタッフは、できるだけ声をかけるようにしています。 「今日はちょっと、いつもと違う感じじゃない?」そんな何気ない会話から、生徒の愚痴を聞くこともあるし、「どの高校行くのか、きちんと考えたのか?」と授業が終わった後に、4〜5人での即席の“進路相談”が始まることもあります。 特にボランティアの「学習サポーター」は、先生でも親でもない(タテ)、友達でもない(ヨコ)、「ナナメの関係」にあたります。歳の近いお兄さん・お姉さんが、子どもたちの学習を サポートするとともに、友達関係の悩みなどの相談に乗る。このような対話が、生徒にとって将来を思い描くキッカケとなるケースもあります。

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このような子どもたちの課題に対して、女川町では今、地域みんなで対処しようという動きが進んでいます。 「災害をバネにして、向かい合える子を育てたい」「あらゆる人に居場所と出番がある町づくり」「復旧ではなく、創造的復興教育」震災後に組織された「女川学びの町づくり実行委員会」の昨年の会議では、学校や教育委員会など行政、地域住民や向学館などの代表者が集まり、このような言葉が交わされました。 学校や地域と連携して、「ゾーンディフェンス」で、子どもたちを見守っていく。そんな機能を向学館では今、強めようとしています。

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冒頭にて記した、おしゃべりがおさまらなくなった自習室ですが、昨年11月、レイアウトをリニューアルしました。 「自習室について、こうしたいという想いがあるなら、きちんと提案すべき。誰も聞いていなところでコソコソ愚痴っていたって、何も変わらないだろ」 中3生たちが自習室について不満を話していたのに、スタッフがこのように伝えたところ、彼らが自分たちで自習室の使い方のルールを話し合い、レイアウト図をつくったのです。 「プレゼンテーションの機会をください!」校長の今村久美にそうお願いして、1ヶ月以上かけた準備の末に、ルールとレイアウトを提案。「君たちを信用しよう」スタッフの総意のもと自習室がリニューアルされたのでした。

学校や教育委員会、企業や行政、地域住民の方々、ボランティアに、遠くから見守る寄付者のみなさま。これに生徒たち自身を加えて、コラボ・スクールでは、さまざまな方々とコラボレーションして、子どもたちを育てていきます。