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女川で子どもたちの成長を見守ってきたスタッフの卒業

2020.4.09

出会いと別れの季節の春が女川町にもやってきました。

今回はこの春に向学館を旅立ったあるスタッフを紹介します。

彼女は2016年から女川向学館にスタッフとして参画し、3年の月日を女川で過ごしました。高校教員、青年海外協力隊、同じ被災地での自然体験施設での勤務経験を経て、女川向学館のスタッフとして子どもたちの日常を支えてきました。

震災当時、出身である仙台市の大学生だった彼女。被災経験を持ちつつも、大きな被害を受けず生活を続けていました。大学卒業後には教員になるという夢を叶え、仙台市内の高校にて教鞭を奮い、その後、青年海外協力隊としてアフリカ・タンザニアにて現地の子どもたちに教育活動を行います。タンザニアでの活動中、彼女が日本・東北の出身だと聞いた現地の同僚教員が声をかけてきたそうです。

「家族や友だちは無事だった? ツナミはどうだった? 」

自身の経験は伝えられても、故郷であるはずの東北の被災状況、また復興の状況を自分の言葉で語ることができない。このことに課題感を抱えた彼女は、帰国後には故郷に戻り、被災地での教育活動に従事しようと決心します。


▲ 勤務初年度。初めて目の前にする子どもたちに自己紹介をしています。

女川向学館との出会いを経て、彼女は女川町の子どもたちの学習支援や居場所づくりをスタートします。 「向学館に勤務し始めた当初は、子どもたちの言動に戸惑うことも多々ありました。」と彼女は語ります。担当になった学年やクラスでの指導にあたっていましたが、教えている間に見えてきた課題は ”基礎学力の不足”、また ”最後までやり切る経験の不足” だったそうです。

当時中学2年生だった男の子は、数学の授業中「分数が入っている問題はやらない。できないもん。」と話していました。彼は学力も高く、学習への理解度も高い生徒。彼でさえも、小学校で習うはずの分数の計算を苦手とし、その問題に立ち向かおうともしない。彼らの学年は、震災直後の2011年に小学校へ入学した学年でした。

落ち着いて学習に取り組むことができる、理解するまでサポートしてくれる人が身近にいる。彼らにとって居場所となり得る女川向学館の存在意義を再認識したそうです。




▲ 多くの受験生も送り出してきました。

教科学習以外にも、女川の子どもたちの興味関心を広げるイベントや目標に向けて試行錯誤していく探究学習にも取り組んできました。

「女川町は漁業の盛んな町です。将来の夢に、漁師を選ぶ子どもたちも多くいます。子どもたちにとって、いま掲げている目標が明確なのはとてもいいこと。一方で、多様な大人たちにも出会って欲しいのです。いま目の前にあるからと選択するのではなく、視野や価値観を広げるなかで、” たくさんの出会いがあったけれど、やっぱりこの町で漁師になりたい” と思いを強く持って自らの道を切り拓いていってもらいたいです。」


彼女は海外での経験を生かして、オンラインで世界とつなぐプログラムにも取り組んできました。はじめは自分の英語が通じるのかと緊張している様子の子どもたちも、次第に画面の向こうの海外の子どもたちとのやりとりを楽しみ笑顔になっていきます。

「このプログラムでは私が活動していたタンザニアと、女川の子どもたちを繋いで交流してきました。異文化を楽しんでもらうことはもちろん、遠い国にいても同じなんだ、そこに暮らしがあるのだ、ということを知ってもらいたいと考えていました。”私も同じようなに海外で活動してみたい”と言ってくれる生徒が何人も出てきたことは大変嬉しく、子どもたちの視野を少しでも広げられたかなと実感できました。なかには、”将来はお金を貯めて途上国に学校を建てる!”と宣言してくれた男の子もいました。外に目を向けるきっかけになったのだと思います。」


たくさんの生徒との日々を女川向学館で過ごしてきた彼女。多くの出会いを得ながら成長を遂げていく女川の子どもたちと同じように、自分自身もアップデートをしていきたい、そう考えるようになったそうです。

「女川向学館では、子どもたちとナナメの関係を築いてきました。スタッフは、親でも先生でも、友達でもない、ちょっと年上の憧れのお兄さんお姉さん。私が生徒の立場だったら、やっぱり何かに挑戦している人はかっこいい!と感じると思うのです。私が新しい一歩を踏み出すことで、大人になっても挑戦できるのだ、ということを子どもたちに感じてもらいたいし、挑戦している姿を見せることが、子どもたちにとっても学びになると考えています。」

女川向学館を卒業するからといって、これで離れ離れになるわけではない。これからも女川や女川向学館とつながって、子どもたちの成長を継続して見守っていきたいと話す彼女。どこにいても、つながっています。新年度、向学館みんなで新しい一歩を踏み出します。これからも、それぞれの場所で、がんばっぺし!